匠とは
自分で評価するもんじゃない
周りの人から「あの人が匠だ」と言われたらそうだろう
ただそれに媚びることなく
匠と言われようが言われなかろうが
自分が毎日料理に対して前向きに精進しながらやっていけるかどうか
手を抜いたり横着しないことだ
父が漁師の家に生まれ、幼い頃から高校生まで一緒に船に乗り漁をしていた
という武輪泉氏。高校卒業後は老舗料亭「相生楼」で修業を積み、
老舗ふぐ料理店「春帆楼」にて30年間料理長を務める。
料理人歴45年。肉割烹「きっしゃん永楽町 松」匠の武輪料理長に話を伺った。
武輪泉氏にインタビュー
■料理を始めたきっかけ
綺麗な言葉で言うなら反骨精神になるかな、
負けたくなかったんや。
子供の頃に父親の漁の手伝いして市場に魚出したら
魚屋から値段を叩かれる。
沢山魚が獲れたときは半額にさせられることもあった。
あの頃は魚屋が漁師をいじめてると思ってたんや。
魚屋に勝つにはどんな仕事したらええんやって考えたら
出てきた答えが料理人やった。
今となったらふざけてるなと思うけど、当時は真剣に魚屋を
見返してやろうと思ってたよ。
■料亭での経験
今でこそ料理学校出たら一人前で給料をもらえる時代になったけど
当時は住み込みで三食付いて手取り2万8千円。
高卒の初任給が7万、大卒で12万の時代。
婚礼が続くと3日徹夜したこともあったね。
まさに修業で「勉強させてもらってる」という感覚だった。
■武輪料理長のこだわり
肉は松坂をメインにしてるよ。名水のあるところには美味しい牛がおる。
神戸牛は六甲山系、松坂牛は鈴鹿山系。
人間もそうですけど、体の80パーセントは水分。
美味しい水のあるところで育った牛が一番美味しい。
牧場での育て方で肉の柔らかみは変わるけど
根本的な違いが生まれるのは「水」ということやね。
■ここでしか食べられないもの
このお店は肉割烹で、焼肉も出すんやけど、他と違うのは
タンのこぶ締めのお寿司とか、赤身にちょっと手を加えたお寿司も出すよ。
焼肉も使う肉とかベースは変わらないけど
付けるタレをワインと醤油で割った普通の甘ダレじゃない和風ダレを
使ったりしてるね。
あとは僕が長年やってきた和食の経験を使って、お客様に喜んで頂ける
新たなお肉の創作的な料理を出していきたいと思ってます。
■やりがいを感じる瞬間
やっぱりお客様に喜んでもらってるときやなぁ。
常連のお客様とか宴会のときとか、みんなお酒はどれぐらい
進んでるかなぁと厨房から眺めて、
飲んでる人が多かったら味付けを濃いめにしたり
飲まない人がいるときはちょっと甘めにしたり。
見えへんところで対話をしてどうやったら
お客様が喜んでくれるか考えてるね。
料理の厳しさは、お店全体のことがお客様の評価につながること。
最後の料理まで美味しく召し上がってたのに
ホールの子がお茶をコツンと音を立ててテーブルに置いたら
「こんな不味い店くるかぁ」となる。
自分の作る料理のことだけじゃなくて、お客様が店に入って
料理を食べて店を出ていかれるまで全て喜んでくれて初めて
「美味しい店」になる。
昔から負けず嫌いなのもあって「不味い」って言われるのが
一番嫌なんです。
お客様が喜ぶには日々の積み重ね、手を抜かず横着しない。
やっぱりこれしかないんやろなぁと思ってます。
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